今では物置と化していますが、かつてはアルコ-ル専門病棟に設置されていた一室です。
内観療法という日本の生んだ世界に誇るべき心理療法を依存症治療に取り入れようとした当院の先輩たちによる試行錯誤の産物です。
白い壁が四方を囲み、障子の引き戸に畳敷き。しつらえは至って簡素ですが、入口の分厚い金属扉は消音効果が抜群。ガシャンと閉めてしまえば下界の音は一切入ってきません。
何もない分、自らの内面から言いようのない感情、断片的な記憶、取り止めのない思考が次々と沸き起こってきます。患者さんたちに内なる声に耳を傾けてもらうための特別な一室でした。
ですが作る前と作った後で、その使い方に違いが出るのは世の常。外出しては一杯ひっかけて帰ってくる入院患者さんが予想以上に多く、この神聖な空間もいつしか酔い覚ましのための部屋となりました。防音扉を閉めてしまえば、酒臭さも、バツの悪さも封じ込められてしまう。ゴロリと畳に寝転んで患者さんが一眠りしてシラフに戻るまでの待機場所としては格好のものでした。誰が名付けたのか「反省部屋」とあだ名され、内観療法とは縁遠くなってしまいました。
今でも別世界の静けさを味わえる空間なのですが、長年染み付いた湿っぽい異臭が畳から立ちのぼり、あまり長居できないのが残念です。
掲載:2021年3月29日
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